東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 吉村忍研究室
サブ課題B
燃料電池気液二相流および電極の超大規模解析による
燃料電池設計プロセスの高度化
- サブ課題責任者
鹿園直毅 東京大学生産技術研究所 教授
⇒ インタビュー 計算工学ナビVol.7 (2015年6月発行)
水素と酸素を電気化学反応させると、電気が発生します。この電気を継続的に取り出す発電装置を、「燃料電池」といいます。燃料電池が発生させるのは電気のほかには水だけなので、将来のクリーンで高効率なエネルギー変換装置として期待されています。
サブ課題Bではこの燃料電池をターゲットとして、その高性能化と耐久性向上のため、革新的な設計プロセスを構築し、設計・製造からその後の経時変化までシミュレーションできる技術を開発することを目指しています。
そのためには、大規模な気液二相流の解析と、電極構造と過電圧等の要素特性に関するシミュレーション技術が必須です。従来の計算機環境では不可能だったこれらの解析をポスト「京」で実現するために、研究開発を行っています。
取組課題
燃料電池セル・スタック内の大規模気液二相流解析と電極の大規模高性能解析による燃料電池設計の高度化
チャレンジングな点
実験的な計測・評価が困難である電極内三相界面に関して、非経験的な有効パラメータのみに基づくPt触媒・担体・電解質を含めた三相界面の構造モデリングと機能解析、さらに合理的な設計への展開は、世界的にも例のないチャレンジングな研究開発課題です。
産業界のニーズとして、現在主流となっている材料や製法をベースとし、マルチスケールの複雑現象を明らかにし、設計技術を高度化することが強く求められています。すなわち、燃料電池の製品競争力向上に資するという観点からは、最終的な製品構成としてのスタックや電極の設計に役立つ数値シミュレーション技術開発が必要不可欠です。
課題担当者
大規模二相流解析による実機PEFC スタックの設計プロセスの構築:みずほ情報総研株式会社・米田雅一
SOFC 電極要素特性解析:東京大学生産技術研究所・鹿園直毅
PEFC 電極要素特性解析:九州大学大学院工学研究院・井上元
PEFC膜電極接合体(MEA)のナノ構造・機能分析:立教大学理学部・望月祐志、物質・材料研究機構・奈良純
気液二相流および電極の超大規模解析による燃料電池設計プロセスの高度化
~ 概要 ~
~ ポスト「京」で開発するアプリの概要 ~
~ PEFCにおける課題解決に向けたアプローチ ~
~ SOFCにおける課題解決に向けたアプローチ ~
エネルギーシステムにおける計算科学の必然性
燃料電池は、微細なスケールでの現象とマクロなスケールの現象とが連成する大変複雑なシステムであり、その設計を高度化することは容易ではありません。例えば、固体高分子形燃料電池では、酸素供給と水の排出が適切に行われないとセルの一部が有効に機能せず性能低下が発生します。これを解決するためには、気液二相流を適切に制御しなければなりませんが、微細な気液界面とマクロな流動様式を同時に予測しなければ精度の高い設計はできません。また、電極反応は触媒・アイオノマー・担体が空間的に複雑に配置された膜電極接合体(MEA)内で生じますが、その構造やその中での輸送現象は原子レベルから解像しなければ明らかにすることはできません。
一方、固体酸化物形燃料電池においても、電極内の輸送現象と微細に分散する三相界面の空間的な情報を同時に取り扱うことが、電極の高性能化と高信頼性化へは必須となっています。これらは、大規模数値シミュレーションによって初めて実現できるものであり、燃料電池スタックや電極の設計技術の高度化に大きく貢献できると期待されます。
計算科学としての革新性
計算科学シミュレーションとして、
- サブミリメートルの液滴からマニホールド内のマクロな気液二相流動の一体解析
- 気相、液相、分散粒子相、三相の同時解析モデルの実装
- 10nm程度の解像度を有する電極有効反応場の全域シミュレーション
いずれも世界的にも例のないチャレンジングな研究開発課題です。