東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 吉村忍研究室
サブ課題A
燃焼器・ガス化炉高圧燃焼・ガス化を伴うエネルギー変換システム
- サブ課題責任者
吉村忍 東京大学大学院工学系研究科 教授
大気中に放出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを大量に削減しようとする技術を、CCS(二酸化炭素の分離・回収・貯留[Carbon dioxide Capture and Storage])といいます。
CCSを利用した石炭火力発電システムの開発が、2020~2030年代の実用化をめざして進められています。この石炭火力発電システム実現のカギを握るのが、石炭を微粉炭にしてから高圧で燃焼させてガスにする炉、すなわち石炭ガス化炉です。ガス化プロセスにおいて石炭に含まれる硫黄分やケイ素などを完全に除去し、燃焼した炭素から出てくるCO2を分離回収して貯留することにより、環境負荷を大幅に低減しながら石炭利用が可能となります。サブ課題Aでは、この石炭ガス化炉の心臓部ともいえるガス化炉をターゲットのひとつとしています。
このような新しいガス化炉や燃焼器の実用化には「高効率化」「低環境負荷」「高レジリエンス性能」に関する原理の解明が必須であり、実際に稼働する設備を作るためには、設計段階や運用段階においてガス化炉や燃焼器全体の高精度なシミュレーションを行うことが欠かせません。
そこでサブ課題Aでは、従来の計算機環境では実現が不可能であったガス化炉や燃焼器全体の高精度シミュレーション技術をポスト「京」で実現するべく、研究開発します。
取組課題
固気液三相LES*と炉構造・冷却の大規模連成解析によるCO2分離・回収・貯留技術を導入した次世代石炭火力発電の実用化加速
* LES(Large Eddy Simulation):メッシュサイズ以上の渦を直接シミュレーションする乱流解析の1手法。メッシュが小さくなるほど小さな渦のシミュレーションが行えるため計算負荷が高くなるものの、高精度の乱流シミュレーションが可能となる
チャレンジングな点
計算科学シミュレーションとして、(1)実機実圧(~数十気圧)に対する燃焼・ガス化反応モデルの高精度化・高速化、(2)気相、液相、分散粒子相、三相の同時解析モデルの実装、(3)灰の壁面付着、溶解メカニズムの解明とモデリング、(4)実機の燃焼系計算と炉容器の熱伝導計算及び非線形損傷解析の双方向連成シミュレーションは、いずれも世界的にも例のないチャレンジングな研究開発課題です。
課題担当者
高圧燃焼器のシミュレーション技術:京都大学大学院工学研究科・黒瀬良一
ガス化炉のシミュレーション技術:
九州大学大学院工学研究院・渡邊裕章、京都大学大学院工学研究科・黒瀬良一
⇒ インタビュー 計算工学ナビVol.3 (2014年3月発行)
高温構造健全性評価シミュレーション技術:
東京大学大学院工学系研究科・吉村忍、東京大学大学院工学系研究科・山田知典
高圧燃焼・ガス化を伴うエネルギー変換システム
~ 概要 ~
~ これまでの実績と準備状況 ~
~ ポスト「京」で開発するアプリケーションシステム ~
エネルギーシステムにおける計算科学の必然性
火力発電エネルギーを作り出すシステムの主要部である燃焼器およびガス化炉の内部では、液体燃料や固体燃料の気流への分散・蒸発(揮発)、燃料と酸化剤の乱流混合、発熱反応、輻射、壁面伝熱など、様々な素過程が同時かつ相互に影響を及ぼし合いながら起こっています。このような非常に複雑で強い非線形性を有するシステムでは、実験室での小規模実験から、実規模に近い実証試験、さらに実機(商業炉)へとスケールアップするプロセスにおいて、しばしば前段階で適正化した設計パラメータや稼働条件ではうまく動作しないということが頻繁に起こり、このことが開発コストの増大と実用化を遅らせる大きな要因の1つとなっています。今後、大規模数値シミュレーションにより、燃焼器やガス火炉の内部現象の解明や高精度予測が可能となり、新しいシステムの開発コストの低減や実用化への期間短縮が実現すると期待できます。
計算科学としての革新性
計算科学シミュレーションとして、
- 実機実圧(~数十気圧)に対する燃焼・ガス化反応モデルの高精度化・高速化
- 気相、液相、分散粒子相、三相の同時解析モデルの実装
- 灰の壁面付着、溶解メカニズムの解明とモデリング
- 実機の燃焼系計算と炉容器の熱伝導計算及び非線形損傷解析の双方向連成シミュレーション
は、いずれも世界的にも例のないチャレンジングな研究開発課題です。